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美は完全な調和と細部に宿る。江戸切子 堀口切子のグラス

【日本の伝統工芸 Vol.1】
美は完全な調和と細部に宿る
江戸切子 堀口切子のグラス

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2017/4/28 UPDATE



アトリエのような空間、堀口切子の工房



三代 秀石 堀口徹さんの仕事場は、江戸川区船堀駅近くの町工場と新興住宅が混在するエリアにある。江戸の下町風情も残るこの界隈は、昭和30~40年代には金魚の養殖でも知られたところだった。
訪ねた仕事場は町工場のそれではなく、むしろアトリエと言ったほうがふさわしい、静謐な世界。切子をカットする機械類も通常ブルーのところ、別注でホワイトにするなど、こだわって仕事場全体を白とシルバーでまとめた。
「レトロ&フューチャーというイメージでしょうか。クリエイションは仕事場作りにも反映されます」。
堀口さんは実家である「堀口硝子」に入社、江戸川区無形文化財二代目秀石(須田富雄)に師事して三代目を継承。「堀口切子」として独立し、2012年江戸切子の伝統工芸士となる。



  • あらかじめ下絵を描いた線に合わせて、ダイアモンドホイールで研削していく。緻密な技術を要する作業だ。
  • あらかじめ下絵を描いた線に合わせて、ダイアモンドホイールで研削していく。緻密な技術を要する作業だ。
  • ▲あらかじめ下絵を描いた線に合わせて、ダイアモンドホイールで研削していく。緻密な技術を要する作業だ。

「切子というのは、ガラスの加工が主体です。もちろん元になる生地のグラスは自分でデザインして作ってもらい、それに加工を入れる。例えれば、漁師と寿司屋くらい違うものです」。
切子の命はカットにある。
「研削する際にダイヤモンドホイールを使いますが、祖父や大叔父の代から受け継いだものもかなりあって、これは財産。種類があるということは、色々なテクニックが使えるということなんです。これらのホイールを駆使して、目指す形に仕上げます」。アトリエの棚にはそのダイヤモンドを使った砥石、ダイヤモンドホイールを納めた箱がうずたかく積まれている。
昭和40年代には東京に約700人いた切子職人さんは、現在100人にまで減少。こういう状況の中で堀口さんは、新感覚の切子を作り出している。



  • 工房は白を基調にまとめている
  • グラスを入れる木箱は白くペイントし、羊のロゴマークを入れている
  • ▲工房は白を基調にまとめている。グラスを入れる木箱は白くペイントし、羊のロゴマークを入れている。

「使ってこそ生きる」三代 秀石の世界



堀口さんの最初の師匠はおじいちゃんの一番弟子だった。「やさしくて何をやるにしても応援してくれた」。その一番弟子の師匠やおじいちゃんたちが活躍していたのは昭和30年代。戦後の復興期で、これから興隆してやるぞっという気概に満ちていた。羊を配した堀口切子のトレードマークは実家が創業当時から使っていたもの。羊は商売繁盛、吉祥の動物だったという。「自分の修業時代は、諸先輩たちに教わりました。聞けば教えてくれる、そういう土壌が江戸切子にはあるんですよ。大学を卒業してから10数年、こうしてやってこれたのは先達たちのおかげです」。



  • 堀口さんは非常に優れたテクニックで、完成度の高い切子のグラスを作り出す。
  • 切子の命はカットの美しさ
  • ▲切子の命はカットの美しさ。堀口さんは非常に優れたテクニックで、完成度の高い切子のグラスを作り出す。

最近、弟子をとって、教えることの難しさとやりがいを感じているという。
「もともと器用か器用じゃないかも重要ですが、人より頭抜けるには、やはり通常よりたくさん仕事をしないといけないんです」。
堀口さんは切子の技術を学び、自分のクリエイションを創り上げてきた。
確かな技術の上に、類いまれな美意識が作り出す堀口切子の盃は惚れ惚れするほど美しい。
作る上で心がけているのは、“やりすぎない”こと。
「盃は使うもの。なるべく削ぎ落としてシンプルに仕上げ、お酒や料理が盛られた時にはじめて完成するのものだと……。余白を意識しながら作っています」。
実際に「黒被万華様切立盃(くろぎせまんげようきったてはい)に酒を満たして上から見ると、今まで見えなかった複雑な模様がふわっと浮き上がってくる。まるで生きている有機体のようで思わず見入ってしまう。
“使ってこそ生きる”。そこに堀口さんはとことんこだわっている。



  • 黒被万華様切立盃

    ▲「黒被万華様切立盃」は、掌に収まるほどよいサイズ。マイ盃として愛用したい。



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お客様に教わった



堀口さんが、“使ってこそ生きる”切子を作ろうと思うベースには、こういうエピソードがある。
「日頃、自分の作る切子を愛用してくださっているお客様が、ご自宅に招いてくださったんです。そのお客様は、若い頃から器が好きで好きで、余裕があれば器を求めるという方でした。そして、食卓には有名無名を問わず、趣味のよい器が載っていまして。それぞれの器に合った美味しい家庭料理が盛られていて、本当に豊かな食卓とは何か、を教えていただいた思いでした」。
深夜近くに自宅へ戻った堀口さんは、それから奥様と、器の断捨離を行ったという。
「本当に好きで、日々触れて使う器ですから。自分たちが豊かな気持ちになる器を身近に置いておきたいと思いました」
それ以来、てらいのない、実用的かつ美しい切子作り一筋にやってきた。
「盃の切り込みを指で持った時に、いい感じにはまるように切り込みし、口に当たるところはなめらかでほどよい薄さに。飲み手がいかに気分よく使えるかにとことんこだわり、それが伝わればいいなという思いですね」。
こうして、職人でもあり、クリエイターでもある堀口さんは新しい江戸切子の世界を切り開いてきた。細部にこだわり、完全な調和を醸し出す堀口切子は、時代に対応した新・伝統の美なのだ。



  • 籠目文切立盃
  • 切立盃
  • ▲堀口切子の作品いろいろ。左は「籠目文切立盃」。古典的な文様が映える6色揃え。対する右の切立盃はまろやかなシェイプに古典からモダンまで、さまざまなカットで魅せ、同じグリーン1色でもその対比が鮮烈。



日用の美



今回、取り上げたのは「黒被万華様切立盃」「薄瑠璃被菊花文ぐい呑(うするりぎせきっかもんぐいのみ)「よろけ縞」の江戸切子。
「黒被万華様切立盃」は、堀口さんの創作のシグネチャー的な酒盃。



  • 黒被万華様切立盃


黒被のガラスを削るのは、模様が見えにくく高度のテクニックを要する。側面はシンプルに削ぎ落とす。しかし、真上からのぞくと、万華鏡のように複雑でデリケートな文様が見え、酒などの液体を注ぐと側面から、さらに新たな模様が浮き立つように現れてくる。切子には珍しいスタイリッシュなデザイン。「伝統は時代に寄り添って変えていくものでなければ」という思いが結実した逸品だ。



  • 黒被万華様切立盃02

    ▲「黒被万華様切立盃」は、お酒を入れるとまた違う模様が浮き立ってくる。透明な日本酒はもちろん、ウィスキーやリキュールなどを入れても似合う。



「薄瑠璃被菊花文ぐい呑」は、少し小ぶりでころんとした丸い形。菊の花を模した文様を切り込む。こちらもシンプルな彫りに落とし込んでいるが、女性的なたおやかさも漂う。緑、青、赤、紫、黄、若草と様々な色があるのも楽しい。とはいえカットにエッジが効いているのは、堀口さんの切子に共通するものだ。



  • 薄玻璃被菊花文ぐい呑み
  • 薄玻璃被菊花文ぐい呑み
  • ▲「薄玻璃被菊花文ぐい呑み」はシャープな研削が切子の美しさを際立たせる。各色揃えて好みの色を選んでもらう酒宴も楽しい。



「よろけ縞」は、着物の柄にもある文様。手描きのままに少しよろけてひょうきんな様子が、昔から愛されてきたものだ。堀口さんはそれを、そば猪口、オンザロック、タンブラーの3種で展開している。「口縁の厚みは1.8mmあたり。これが口に馴染みよく、堅牢さも保つ寸法」。底の厚みがしっかりしているので、安定感のある使い心地。実用にこだわった形は、さまざまなシーンで日常使いができそうだ。
そば猪口は、素麺のつゆを入れるのはもちろん、向付の器として酢の物などや和え物など小さなおかずを盛りたい。オンザロックは、ウィスキーやブランデーのほか、ラム、梅酒などのリキュールを楽しむ時にもよさそう。タンブラーは、ソフトドリンクや麦茶など何にでも合う。
こういう器を身近に使えたら、毎日の食卓が心楽しいものになるだろう。



  • よろけ縞のシリーズ

    ▲よろけ縞のシリーズは、様々な使い道がある。そば猪口はオードブル、タンブラーはノンアルコールカクテル、オンザロックはジントニックなど。研削した縦縞が生きている。



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