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INTERVIEW

クリエイティブな視点で、有限な世界を次の世代に引き継ぐ

PIED PIPER PROJECT代表取締役
REBIRTH PROJECT会長 龜石太夏匡氏

— 後編 —

ANAとマスターピースとのトリプルコラボレーションで「AIRBACK」プロジェクトを展開している「REBIRTH PROJECT」。
「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」という理念を掲げるソーシャルビジネスの会長として活躍しつつ、
自身の新たなプロジェクト「PIED PIPER PROJECT」を2019年に立ち上げたのが、龜石太夏匡さんです。
ファッションや映画といったジャンルでもキャリアを積んできた龜石さんに、今後のビジョンや取り組みに込めた思いを聞きました。

聞き手:安住紀宏 (lefthands) / フォトグラファー:大畑陽子 / 編集:大野重和(lefthands)/ 取材場所:PR Bar

2020.04

豊かな人生とは何か?

— 前編では、龜石さんがこれまでどのようなプロジェクトに取り組まれてきたのかを、お話しいただきました。後編では、理念の部分に迫っていきたいと思います。具体的には、「ANA SOCIAL GOODS」が掲げる「三方良し」の精神や、物質的な豊かさだけを追うのではない、これからの豊かさとは何かといったようなことを伺っていきたいと思います。まずは、龜石さんがどんな思いで様々なプロジェクトを手がけていらっしゃるのか、教えていただけますでしょうか?

龜石(以下敬称略):REBIRTH PROJECTの2年目だったと思うのですが、愛媛のある大学で講演をさせていただく機会がありました。その際に、会場の皆さんに質問を募ったのですが、一番多かったのが「豊かな人生とは何ですか?」というものでした。


— 難しい質問ですね。何とお答えになったのでしょうか?

龜石:まず思ったのは、豊かな人生なんて考えたこともなかったなということでした。前編でお話ししたように、僕は20代で洋服屋を始めましたが、途中で自分の役割が見えなくなって絶望してしまった。それで自分がやりたいのは映画だと気付いて、映画づくりをがむしゃらにやってきた。そして、それが結果としてREBIRTH PROJECTにつながった。過去があって今があるという感覚しかなかったんです。そこで、逆に「豊かな人生って何だと思う?」と会場に投げ返してみました。


— 会場からは何と返ってきたのでしょうか?

龜石:お金が有り余るほどあるのが豊かさだという意見と、精神的に豊かだと思えるのが豊かさだという、2つの回答に分かれました。そこで、もう一度僕自身のことを振り返ってみたんです。20代の頃は洋服屋で稼いでいて、お金の面では豊かだったかもしれないけれど、将来への不安や自分のやりたいことが何なのかという悩みもあって、精神的にはちっとも豊かじゃなかった。30代になって映画に没頭していた頃は、お金の面ではとても苦労しましたが、自分のやりたい映画づくりに励むことができていました。


— 精神的には豊かだったということでしょうか?

龜石:でも、映画づくりを行うなかで、社会の問題が他人ごとじゃないことに気付いて、社会課題すら自分の課題のように思うようになったんです。それがREBIRTH PROJECTにつながったわけですが、こうして人生を振り返るなかで気付いたんです。仮に僕が80歳まで生きるとして、「自分の人生って豊かだったな」って振り返ってわかるのが豊かな人生なんじゃないかな、と。じゃあ、そう思えるためにはどう生きればいいのか。それは、なるべく自分の心を偽らずに生きることではないでしょうか。


— なるほど。

龜石:もちろん、自分の心を偽ってしまう瞬間なんていくらでもあるし、そもそも自分の心が本当は何を思っているのか、人はなかなか気付けない。それに、こんなことを言うのは綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、実際に東日本大震災のあと、日本でも大きな価値観の変容がありました。環境問題に対しての関心も高まっていますよね。「三方良し」という言葉がありますが、人間の真実の部分で、誰しもがそんな思いを持っているんじゃないでしょうか。そして、そういう「真善美」を常に持って生きることが、これからの豊かさにつながっていくんじゃないかなと思います。


— 龜石さんにとっては、それがREBIRTH PROJECTやPIED PIPER PROJECTにつながるということですね?

龜石:そうですね。例えば、前編でもお話しした「AIRBACK」は、ANAとのコラボでもそのストーリー性から、多くの方から注目をいただきました。このプロジェクトにおいて、僕が何を期待しているのかということを少しお話しさせてください。


— ぜひお願いします。

龜石:震災や様々な社会課題によって、この世界が有限であることを誰しもが思い知らされた。空気、水、食料、土地も、そして現状ではエネルギーも。あるいは、もっと言えば自分の命も無限なんかじゃない。今ある限られた範囲のなかで、どうやって未来につなげていくのか。有限のなかでのクリエイティブって何だろう、そういったプロジェクトにどんな意義があるんだろう。そんな思いが「AIRBACK」には込められています。ですので、「こういった取り組みに価値を見出すことって、大切なんじゃないか」という賛同の声を多くの方からいただいている結果が、好評につながっているのかなと思っています。


— 未来につなげていくというのは、まさに「三方良し」に通じますね。

龜石:「ANA SOCIAL GOODS」も、自分にとって良いというだけでなく、自分以外の誰かにとっての良いことでもある。あるいは、結果として自分の孫の世代にとっての良いことにつながっていくかもしれない。それが回り回って、自分にとっての良いことになるかもしれない。商品を通してそういった想像力を働かせることができるというのは、とても意味のあることだと思います。


— 龜石さんが社会課題解決に取り組まれているなかで、気を付けていらっしゃることなどはありますか?

龜石:僕たちは社会にとって良いことを行っていますが、一方で「これが良いことなんだよ」と自分たちの価値観を押し付けてしまわないように心がけています。例えば、愛媛で何かプロジェクトを実行するにあたって、地元の小さい企業に声をかけるとします。その際、僕たちは社会を良くするための商品を作ろうと思っても、その企業にとっては大きな負担になるかもしれません。それでも無理をして協力してくれる可能性もありますが、結果として、盛り上げたいと思っている地元の企業にとって良いことにならないかもしれない。ですので、まずできることからやっていきましょうというのを大事にしています。あるいは、今できなくても、3年後にはできるようになるかもしれない。その道筋を一緒に考えていくということに注力しています。

ストーリーを伝えて、人をつないでいく

— 龜石さんは、REBIRTH PROJECTやPIED PIPER PROJECTにおいてものづくりに関わっていらっしゃるだけでなく、映画製作というものづくりも実際に行ってこられました。そこで、次にものづくりについて考えていらっしゃることを教えていただけますか?

龜石:僕が今、重要だと思っているのは、圧倒的に映像ですね。多くの自治体などで地域の良さを伝える動画を作っていますし、実際にANAの機内でも流れていますよね。ドローンを飛ばして風景の良さを伝えたり、名産品を撮ったりしているのが多いように思います。とても美しい映像ばかりで、それを見て僕も日本の良さを再発見することが多い。ですが、加えて、これからはフィクションとノンフィクションを融合させることが重要だと思っています。

龜石氏がオーナーを務めているバー 〈PR BAR〉は、リバースプロジェクトの
事務所の地下にある隠れ家的なバーだ。

— フィクションとノンフィクションの融合ですか?

例えば、僕の友人が福島・会津のスキーロッジをリノベーションしたんです。料理も新しくして、板長さんが作るようになった。料理の説明をしていただいた際に、地元の豪商の蔵から出てきたというお椀を見せてくれたのですが、江戸時代から使われてきたものだというのに綺麗なままの状態なので、きっと結納の席やお正月など、特別な時に大事に使われてきたのだろうと想像が膨らみました。


— そのお椀をもとに、映画の脚本が書けそうですね。

龜石:まさにそういうことなんです。このお椀の例で言えば、大事に使われてきたお椀が現在も残っているというのはノンフィクションですよね。でも、そのお椀にまつわるエピソードを膨らませていくのはフィクションです。その両面を映像で表現していきたいなと思っています。例えば、豪商の結納の席で、雪が降っている情景を映すとします。花嫁さんはどうも浮かない顔をしている。実は、弥太郎という恋焦がれた相手が他にいたのかもしれない。もしかしたら親に政略結婚させられたのかもしれません。それでも、花嫁はそのお椀を手に取って、決心がついたような顔をする……そんな映像があったら、そのお椀のことをもっと知りたいって思いませんか?


— とても素敵ですね! そのお椀がどんな歴史を重ねてきたのか知りたくなりますね。

龜石:ですよね。こういった映像をANAの機内で流すことができたら、その土地に向かう人がもっと土地のことを知りたいと思ってくれるんじゃないでしょうか。例えば四国行きの便だったら、四国の名産をそんな紹介の仕方をすれば、実際に着いた時に見に行ってみようと思ってくれるかもしれない。人は、ものの良さを知っただけではなかなか他の人に紹介しようとはならないんです。でも、それがどんなストーリーを持っているのかを知ると、他の人に紹介したくなるのではないでしょうか。例えば、この道具はとても高度な技術で作られていて……と言われても、それを人に教えたいとは思わないかもしれない。でも、四国の90歳のおばあちゃんが一人で作っているんだよというのを知ったら、他の人にも紹介したくなりませんか?


— なりますね! 脚本家としてご活躍なさってきた龜石さんらしい発想ですね。

龜石:ANAは航空会社ですので、人を運ぶ役割を担っています。そんなANAの機内でストーリーを伝える映像を提供できれば、実際に人をそこに動かすことができるかもしれないし、自らファンになってくれる人が増えるかもしれません。


— 海外の人に対しても、文字ベースよりも伝わりやすいですよね。他に今後ANAとコラボレーションしたいことはありますか?

龜石:四国で取り組んでいるシルクづくりは、ぜひANAと何かご一緒できたらいいなと思いますね。世界でもシルクの需要は伸びているんです。昨年、茨城・つくばでシルク・サミットが行われた際は、次のシルクの形がテーマの一つになったのですが、僕たちが手がけている先進医療や美容への応用はズバリ合致したものだったので、注目を集めることができました。


— そういったきっかけで、愛媛のシルクが世界中に知られるようになるといいですね。

龜石:それでも、今、愛媛の養蚕業はとても衰退しているんです。そんななか、滝本さんというご兄弟で養蚕業を営んでいらっしゃる70代の方を支援させていただいています。嬉しいことに昨年、お孫さんが後を継いでくれることになったんです。滝本さんもとても喜んでいらっしゃいました。


— 龜石さんのお話を伺ってきてハッとさせられたのは、龜石さんのプロジェクトは、消費者に買ってもらうということだけでなく、世界中の人たちにこんな良い伝統品があるんだというのを伝える役割もあるんですね。そこから、ファンになってくれるだけでなく、後を継いでくれる人が現れるかもしれませんね。

龜石:そうですね。日本には長い歴史があって、受け継がれてきた素晴らしい文化や産業がたくさんあります。それらが一度なくなってしまうと、復活させるのは難しい。でも、ANAをはじめとした様々な企業がパートナーシップを結ぶことで、新しくクリエイティブな視点で未来につなげていきたいと思っています。


— では、最後に目標などありましたら教えていただけますか?

龜石:前編でもお話ししましたが、PIED PIPER PROJECTでは愛媛の事業だけでなく、アパレルも行いたいと思っています。そこで考えているのは、ブランドを強くする仕組みをどのように作っていくかということです。日本のアパレルはブランドが強かった時代があって、そのおかげで国内の生産工場は活かされてきたと思います。でも、今はどんどん工場が閉鎖されてしまっている。一度失ってしまうと取り戻すのは難しいので、日本の伝統的な技術を守れるような、強いブランドをもう一度作っていけるようにしたい。それと、この「piedpiper rebirthproject bar(PR Bar)」は、コミュニケーションの場として開いていますので、たくさんの人たちにお越しいただきたいですね。

龜石太夏匡

Takamasa Kameishi

PIED PIPER PROJECT代表取締役、REBIRTH PROJECT会長。1971年生まれ。3兄弟とともにセレクトショップ「PIED PIPER」を立ち上げる。その後、俳優の伊勢谷友介氏と出会い、脚本家やプロデューサーとして映画制作に携わる。2009年には伊勢谷氏とともにREBIRTH PROJECTを立ち上げ、交流の場として、東京・青山に「piedpiper rebirthproject bar(PR Bar)」もオープン。2019年には自身のプロジェクトPIED PIPER PROJECT株式会社を立ち上げる。

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